「パパ、ママいらん」..大麻を隠し5歳児を虐待した目黒虐待死事件

東京都目黒区で２０１８年３月、当時５歳の女児が虐待死した事件。

北海道札幌に生まれた雄大は父親から虐待ともいえる暴力を受けて育った。頭部の骨が変形するほどだったという。

学生時代はバスケに熱中する誰もが羨むヒーローだった。

同級生は「もう話題の中心というか、遊ぶ時の中心っていうか。明るくて楽しい友達っていう感じですかね」と、雄大には人を惹き付ける力があったと当時を振り返った。

2003年4月、大学進学のため東京に出てきた雄大。卒業後も東京に残り、2007年4月、通信関係の大企業に勤めるようになる。仕事もでき上司の評価の高かった。

しかし、雄大は勤め先に地元への異動を希望し、2014年5月には札幌に戻ることになった。

夜のすすきので、紹介じゃないと行けないような高級クラブのボーイとして働くようになった。

キャバクラの人手が足りない。そう請われ、2015年に高松の繁華街でボーイとして働き始めた。ここで優里と出会った。

優里は、香川県の善通寺市で4人きょうだいの末っ子として生まれ育った。兄や親族が逮捕されるなど、地域では肩身の狭い思いをして過ごしていた。

高校卒業後、19歳で妊娠して結婚するも、DVが原因で離婚。

地元にいい仕事がなかったため、毎晩、高松市のキャバクラへ働きに行った。ここで２人は出会った。

優里と雄大は香川県で結婚し、平成２８年１１月に弟が生まれた。

雄大と結愛は最初はとても仲が良く、積極的にスキンシップをとり、結愛もすごくなついていた。

しかし、弟が生まれた頃から結愛への虐待が目立つようになる。

しつけの一環として最初は「鬼に食べられる」、「お化けが出る」などと言葉をかけていたものの、しつけがうまくいかない苛立ちから手を上げるようになった。

8月25日、近所の人が「子どもの泣き声がひどい」と児相に通報した。児相は、結愛ちゃんが通う幼稚園に問い合わせたが、園の回答は「特に問題はない」。家を訪ねたが不在だった。

12月25日、女児が裸足、パジャマ姿で自宅の外に放置されているのを周辺住民が発見。近所の女性が「おうちに帰ろうか」と聞くと、「お父さんが怖いから嫌だ」。「パパにたたかれた」と訴え、児相が一時保護した。

雄大は、この件で香川県警に傷害容疑で書類送検されたが、のちに不起訴になった。

翌年2月、一時保護を解除。だが、虐待は止まらなかった。

3月、再び家の外に出され、2度目の一時保護。ひざなどに傷があった。

このころ、結愛ちゃんは「パパ、ママいらん」「前のパパが良かった」と言うようになっていた。

雄大は5月にも傷害容疑で書類送検されていたが、再び不起訴になっていた。そして児相は、7月31日に、指導措置付きで保護を解除した。

2017年12月、雄大は仕事の都合で東京都に単身で引っ越した。その後、3人は後追いで1月中旬に転居。

品川児相は香川児相の連絡を受けてこの案件の移管を受理し、2月に家庭訪問を試みたが、面会を拒否された。

目黒に来てからは暴力がさらに増した。2月に入ってすぐ体にアザができ、外に連れて行けなくなった。

結愛ちゃんは「パパ　ママ　もうおねがい　ゆるして」などとノートに書き残していた。

毎朝4時ごろに起床し、父親から平仮名を書く練習をさせられていた。

一日一食などの食事制限をした上で、頭をたたいたり、冷水を浴びせたりする暴力が繰り返される。

時計の勉強をするよう指示していたのに布団を出して寝ていたため、「なぜ寝ているんだ」と叱った。

首をつかんで無理やり風呂場に連れ込み、馬乗りになってシャワーで冷水を浴びせ、「謝れ」と怒鳴りながら両手で複数回顔を殴打。

雄大が馬乗りになり、何度も顔を殴打した直後の2月27日。体重計に乗せると、前月より4キロ以上も減っていた。

「12キロ台はやばい」。雄大はそう言ってバナナとコーヒーを渡したという。結愛ちゃんは残さず食べたが、その後に嘔吐。

死亡前日の3月1日には命の危険が頭をよぎったが、「虐待の発覚を恐れる保身」から病院に連れて行かなかった。結愛ちゃんが死亡した際は「頭が真っ白になった」という。

司法解剖の結果、足には重度の凍傷が認められた。また、死亡前の臓器が正常な5歳児よりも5分の1も小さく萎縮していた他、2月末ごろから衰弱し、ほぼ寝たきり状態となり嘔吐を繰り返していた。

事件後、雄大は大麻2・4グラムの所持で逮捕起訴されている（同時に大麻使用のための粉砕機や秤も押収）。

学生時代や事件前の東京でドラッグを使用している。

優里の親族はドラッグ関係の事件で逮捕された過去がある。彼女自身も雄大の薬物使用を知っていた。

こうしたことからすれば、雄大が結愛ちゃんを病院へ連れて行かなかったのは、家宅捜索によって違法薬物の使用が見つかることを恐れていたという可能性は否めない。

優里の弁護側は、雄大の執拗な心理的ＤＶの影響を踏まえ、懲役五年が相当だと主張。

結婚から間もなく、雄大は連日優里に対して1～3時間に及ぶ「説教」という名のDVを行った。

日常の細かなことを批判し、反省文を書かせ、「デブ」などと罵倒して摂食障害に追い込んだのだ。

優里は「あなたの貴重な時間を使って怒ってくれてありがとうございました」などという反省文を、雄大に対して書く毎日をおくっていた。

娘も母親も、同じような反省文を書く日々。優里もまた雄大によるDVの支配下に置かれていた。

暴力のいいなりになってしまった理由は「私が馬鹿だからです」。優里はかなり自尊心が低くなっていた。

検察側は、「唯一の味方の母親にも助けてもらえなかった絶望感は、察するに余りある」と指摘、懲役11年を求刑。

2019年9月17日、東京地裁は、「結愛ちゃんが感じた苦しみや悲しみ、絶望感は、察するにあまりある」と指摘して、懲役8年を言い渡した。

雄大からの心理的DV（ドメスティックバイオレンス）については「看過できない影響があり、従属関係が見て取れる」と認定したが、「離婚を切り出すなど抵抗の態度を示したこともあり、心理的に強固に支配されていたとまではいえない」と判断した。

最後に裁判長は、「結愛ちゃんは戻ってこないから、こうなったことをしっかり考えてやり直してください」と告げた。

弁護人は懲役８年とした東京地裁の裁判員裁判判決を不服として、東京高裁に控訴した。

検察側は「虐待を主導し、1カ月以上いじめ抜いて、いったい子どもをなんだと思っているのか、言葉を失うほど犯行は悪質」と指摘、懲役18年を求刑した。

一方、弁護側は「虐待した理由は身勝手だが、父親になろうとする気持ちはあった」と述べ、懲役9年が妥当と主張した。

最後に雄大は、涙で言葉を詰まらせながら、「本当に申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい」と謝罪した。

東京地裁は「激しい虐待を主導し、単独で暴力を振るった。同様の事件の中で、最も重い部類に位置づけられる」として、懲役13年を言い渡した。

守下裁判長は「激しい食事制限や常習的な暴力を受けたうえ、痩せ細っても治療を受けさせてもらえないまま死亡した被害者の身体的な苦痛や悲しみ、絶望感は察するに余りある」と指摘。

最高裁のまとめによると、保護責任者遺棄致死事件の裁判員裁判で、10年前の制度開始からことし８月末までに有罪判決を受けた69人のうち、懲役10年を超える判決は３人にとどまり、今回の懲役13年は重い刑と言える。

夫婦は事件後に離婚した。